イタリアはバルディフィエメで開催されているFISノルディック世界選手権、スキージャンプ個人戦(HS134・公式練習)のレポートがスキージャーナリスト岩瀬孝文氏より届きました。
「待たされて」 写真・文:岩瀬孝文
北イタリアのバルディフィエンメにきて葛西紀明は意気込んでいた。
いつになく体調が良いのだ。しかも札幌で右膝の調整にあたりながら、休養も充分に節制を重ねて、さらに心身を鍛え上げていた。
ワインも少量に、パスタは炭水化物なので、まあ適量で仕上げて。
とにかくぎらぎらと気迫を前面に押し出してのジャンプ台入りだった。
「狙うのはメダル」
目がそう言っていた。
公式練習では多くを語らず、飛んで着地して、バックルをはずし、淡々と引き上げる。
それを見ていると一連のルーティンワークとして、流れるように進められる。
かっこいい、誰もがそう思うであろう、葛西の仕草に熟練の流麗さがある。
ふと、スウェーデンのテレビ局が葛西を呼び止めた。
英語での質問が始まった。
-なんでここまで長くとんでいるのかな?
「オリンピックの金メダルがまだ、ないからさ」
-こどもがいたらジャンプ選手だよね
「いや、プロゴルファーにする(笑)」
-いつリタイアするの?
「アフター・ザ・オリンピックゲームス、メイビー」
え、引退?
それはグッドジョークと捕らえておこう。
しかし、英語がかなりうまい葛西選手だった。
ノーマルヒルでいい風過ぎて、待たされて、引っ込められ、飛んでみたら、風がとんでもなく、ぼたりと落ちる。
これはもう不運としか言いようがなかった。
「泣いても泣ききれないでしょ、これは!」
と、はき捨てるように言う。
だから集中一番、ラージヒルの公式練習で抜群の飛距離をたたき出し、観衆と各国コーチらを唖然とさせた。
やるぞ、ラージヒル。
借りを返すぞ、この好きなプレダッツォで。
一瞬だけ、にこりとして、また固く口を結んだ。
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